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H30 9/26 第30回福井読書感想交換会レポート(アルジャーノンに花束を) [読書感想交換会]

「星を読む会」主催、第30回福井読書感想交換会は平成30年9月26日(水)午後7時から、福井県立美術館横「美術館喫茶室ニホ」で行われました。
今回の課題図書は、ダニエル・キース「アルジャーノンに花束を」でした。
本作が大好き!という、ミステリー大好きな新メンバーも飛び入り参加し、また、古参メンバーから「外国文学は馴染みがなく、小説とお笑いは日本に限る!」という、メンバー大爆笑の名言も飛び出し、まったり進行のなか、和気あいあいと会が始まりました。

それではまず、会の皆さん一人ずつから読後の感想をお聞きしていきましょう。

1さん
読み始めの段階では、チャーリーの知能が低い状態で、平仮名が多く句読点もなく、文章が非常に読みづらい。
彼らと接するには、忍耐が必要で、家族や社会から偏見の目に晒されているということを感じた。アルジャーノンの死によってチャーリーは自分の運命を悟り、ウォレンという障害者施設へ自分から赴くという判断をしたが、それは「高い知能の世界を知った」からの判断。
最も重要だと感じたのは、賢さと幸福度は比例しないということ。人間関係の軋轢は、社会的理解が広くなった現代でさえ、知的障害者のみならず、発達障害者や鬱病患者、性的マイノリティーの人たちは社会から隔離されていると感じる。100年前だったらもっと生き難くく、どうしていたのだろうか。

2さん
割と好意的に読む事ができた。印象的だったのは、最初と最後で、誤字脱字を多用していることに気が付いた。最初の方は読みづらさから、読み飛ばしていたが、最後が近付くにつれ、一文字も逃さずに意味を捉えようとしていて、誤字脱字の文章をあまり真剣に読まなかったのは、自分も障碍者の方に対して、多少なりとも偏見があったからなのかもしれない、と気が付いた。
実際には死んでいないけれど、徐々に人が死んでいく描写のリアルさに心を打たれた。
クリスチャンの自分としては、チャーリーが手術を受ける前後でも、信仰を持っていた、という事に興味を持った。

3さん
この作品を最初に読んだのは、中学生の頃で、当時は「幸せとは普遍的なものである」という、教訓的な物語として捉えていた。そして、文体が「経過報告」という形だったため「ドキュメンタリー」のような印象を持った。
人間が何十年という時間のなかで、成し遂げることを、チャーリーは数カ月で成し遂げた。しかし、考えるという行動の尊厳には、ある程度の知能が必要だ。最後に、アルジャーノンへ花束を贈ってくれという情緒の由来は、彼が得た人間への尊厳であり、それは手術を受けなければ得られなかったものだ。チャーリーは、手術を受ける前も、人間だったと思う。かつての自分は、手術をしないで知的障碍者のまま、一生を終えた方が幸せだったのかも、と思ったが、今は、手術を受けて良かったな、と感じている。

4さん
人生とは上り坂と下り坂であり、チャーリーは知らなくてもいい事を知ったことになると思った。昔の自分に対する周りの扱いがどういう類のものだったのかという事を、賢くなることで理解した時の辛さなどが、特にそうだ。ニューヨークで、チャーリーとアルジャーノンが逃げた時、もう研究室に戻らなくても良かったのではないかと思った。
悲しかったのは、後半の下り坂の所で、自分が朽ちていくということが分かっていたから、好きな人(アリス)と会うのを止めてしまったところ。
最終的に知能は元に戻ってしまうが、最後の一説「アルジャーノンに花束を贈って欲しい」という部分では、チャーリーにとってアルジャーノンとは、賢くなりたいと願う自分自身と戦った、戦友同士であると感じた。

5さん
人としての在り方を問う作品であると感じた。チャーリーの最初の願いは、みんなから好かれたいから賢くなりたいということだったが、知性の獲得と共に、知らなくてもいいことを知り、どんどん孤独になってしまった事が悲しかった。人にとって一番重要な事は、知能が高い事ではなく、優しさや思いやり。
そしてチャーリーの知性の獲得と「攻殻機動隊」のタチコマのゴーストの獲得が似ていると感じた。もしかしたら、本作へのオマージュなのかもしれない。

6さん
本を全部読む事が出来なかった。
前半部分の、ひらがなだけの、句読点がない文体の読みづらさで挫折してしまった。それでも頑張って、後半まで読んだ。
以前ドラマ化したものを見て、昔も一度この作品を読もうとしたが、今回と同じ理由で挫折し、読めなかった。

7さん
一番の感想は悲しい話、ということ。物語の最後の方、キニアン先生の教室に間違って会いに行ってまったことがきっかけで、自ら養護施設へ行くという決断をしたところが特に悲しかった。本作の最初の方に「教養が人と人の間に楔を打ち込む可能性がある」と書かれているが、チャーリーは頭が良くなってからはずっと嫌な奴として描かれている感じがした。親に愛されたい、仲間と仲良くしたいという、本来チャーリーがやりたかったことは実現出来ていないし、両親と対面した時も、頭のいい人間として振るまえていない。チャーリーは頭が良くなり感情が豊かになったが、感情に振り回されて周りにも悪影響をもたらしてしまった。急激に頭が良くなったことで、本来ならば年齢と共に徐々に身に付いていくであろう寛容さを身につける時間がなかったのではないだろうか。

8さん
元々この本がすごく好きで、読書会で取り上げてもらってすごく嬉しいと感じている。20代になって初めて読んだが、50年前に書かれた本とは思えないぐらい、虐待や精神病の事に対する考え方が、現代的だと感じた。
チャーリーは一体どうしたら良かったのか?という事をずっと疑問に思っていて、答えは、未だにわからない。この作品への疑問点は、
・人間は優しさを持ったまま賢くなることはできないのか。
・なぜ優しさを持ったまま成長できなかったのか。
ということ。
知恵と幸福度は比例するが、賢くなると、幸福などが感じられない寂しいことになり、人間は結局寂しいままなのだろうか、と感じた。

9さん
この本を選んだ理由は、自分自身もずっと持っていたが、読めていない作品だったから。自分は、知的障碍者の施設で10年以上働いている。自分が登場人物の一人になったような感じがした。
この業界では、知的障碍者と接する仕事をしている人は読んでおくべき一冊といわれている。
この作品に対して特に不思議に感じたことは、ダニエル・キースがなぜ障碍を持った人の立場に立った本を書けたのか、ということ。「見る」ということと「書く」ということでは、視点がまったく違う。もしかしたら、身近に障害を持った人がいたのでは?と感じた。
頭が良くなったら、以前のままの方がよかったと思う、というのはひどく矛盾しているように思うが、その感情を小説として表現することは困難な事。素晴らしい作品だと感じた。


一通り、感想などを言い終えたあとは、それぞれの感想を踏まえ、もっと掘り下げたいところを話し合うため、フリートークへ移行します。そこでもこんな感想が飛び出しました。

・文体や人名がなかなか覚えられなかった。
・アリスのチャーリーに対する感情は恋愛感情なのか?
→読書会メンバーは、アリスは、チャーリーに対して恋愛感情はあったと認識していた。
・アリス=と表記されているときは、チャーリーが女性として見ていて、キニアン先生=と表記されているときは、恋愛感情はなし、と判断した。
・障碍者施設に勤めている自分の親にも本作を薦めた。彼らの気持ちが知れて良かった、と話していた。
・自分の身近に障碍を持った人がいないため、想像しただけでも辛い。
・障碍者に寄り添って生きることは、なかなか難しいと感じる。
・チャーリーの母親が、今まではチャーリーに一生懸命だったのに、妹が生まれたとたん、チャーリーを邪険に扱い出して、それが読んでいて辛かった。
・自分の兄が認知症で、認知症に人でさえ、周りにいることで、生活がまったく立ち行かなくなってしまう。

そしてこの後「知能を得ることは、果たして本当に幸福なのか?」というテーマで、意見交換が開かれました。

・生きていくための最低限の知能は必要。社会に出るための知能は大切。
・社会の中で、知的障碍の方の働く場所を作ろう、という動きが活発な施設もある。
・しかしその就職先でも、彼らがチャーリーのような扱いを受けていたのかな、と感じると辛い。
・知的障碍があることの問題点は、お金の管理が出来ないこと。
・過去に、お金を手に入れることで、夜遊びを覚えてしまったり、判断能力が乏しいために、妊娠・堕胎を繰り返していた人もいた。
・知的障碍者もグレーゾーンが存在している。=昔は、ちょっと変わった人で片付けられていたことが、今は障碍として、名前が付く。
・彼らが特別学級で授業を受けたり、社会へ出るためには、周囲の理解やサポートが必要。
・企業としては、軽度の障碍者を雇用する傾向にある。
・知的障碍者は療育手帳というものを持つことが出来る。

ここでメンバーから、こんなご意見も出ました。

7さん
障碍者の人の居場所が、社会には中々ないと僕は感じる。彼らが従事できる仕事がもっとあるといいのに。一歩外へ出ると、競争社会では、能力が平均より下回る人は活躍できない。知的・身体障碍者だけでなく、発達障碍の人などは、一見すると普通の人と変わりなく見えるが、みんなと一緒の仕事をする事が難しい傾向にある。何か特異な能力が発揮できればよいが、そうでない限り社会からは抹殺されてしまうように思う。今の社会は競争させる時代であるのが問題。100年前だったらそういう人たちには何らかの居場所があったが、今はそうではないく、それに対して、非常に不条理さを感じる。

そしてここで、読書会のリーダーからおすすめ本です!
「アルジャーノンに花束を」は、色々な派生作品が出ているようですが、そのうちの一つ、東野圭吾著「あるジーサンに線香を」です。
これは認知症バージョンで、コメディとして読めるので、とてもオススメです!
本作との違いを感じながら読んでみるのも良いですね♪

社会問題にまで発展した会は、ここでおしまいです!
1冊の本から、他のメンバーの方の見方、考え方、人生論まで勉強することが出来た、大変有意義な2時間でした。
参加された皆様、大変お疲れさまでした!

次回31回福井読書感想交換会は、平成30年11月17日(土曜日)19:00から21:00までの予定で開催します。
会場は福井県立美術館横「美術館喫茶室ニホ」です。

次回は、万城目学著「悟浄出立」(新潮文庫)に収録の表題作作「悟浄出立」と種本の中島敦著「悟浄出世」(青空文庫など)を読み比べてみたいと思います。
中島敦著「悟浄歎異」も参考までに。
お気軽にご参加ください!

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第31回福井読書感想交換会のご案内 [ご案内]

次回31回福井読書感想交換会は、平成30年11月17日(土曜日)19:00から21:00までの予定で開催します。
会場は福井県立美術館横「美術館喫茶室ニホ」です。

次回は、万城目学著「悟浄出立」(新潮文庫)に収録の表題作作「悟浄出立」と種本の中島敦著「悟浄出世」(青空文庫など)を読み比べてみたいと思います。
中島敦著「悟浄歎異」も参考までに。
お気軽にご参加ください。

会費500円(ワンドリンク付き)

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